こんにちは、ひでです。
ラパスの近郊には、旅行者の間で有名な「ワイナポトシ」という山があります。
標高6,088m。
インターネットで検索してみると「世界で最も挑戦しやすい6,000m峰」などと出てきます。
そう、標高6,000mを超える山に、なんと登れちゃうのです。
6,000っていったら、富士山の倍……はさすがに言い過ぎだけど……んー、まぁとにかく高い!
そのワイナポトシ、森くんが「一緒に登りましょう!」と言うので、行ってみることにしました。
二人でツアー会社をいくつか回ったところ、「ヘッドライトのレンタル料金込み」で他社と同じ値段の会社があったので、そこに決めました。
標高6,000m超といっても、当然ながら海抜0mから登るわけではありません。
まずはツアー会社のミニバンで、登山の起点となるベースキャンプに到着。
ベースキャンプには、テントではなくきちんとした小屋が建っていて、電気も通っています。
ここの標高は
4,800m。
もう既にかなり高いところに来ています。
ラパスも標高が約3,600m(エルアルトは約4,000m)あり、かなり高度順応していたつもりだったのですが、このベースキャンプではさらに酸素が薄く感じます。
小屋の外、少し離れた場所にルート案内図がありました。
この図では、ベースキャンプの標高は4,700mとなっていますね。
いずれにせよ、頂上の6,088mまで、さらに1,000m以上登る必要があります。
だいじょうぶかな……鼓動がドキドキと速いのは、酸素が薄いからだけではありません。
高山病にならないよう慎重に、普段よりもゆっくり動くことを心掛けつつ、ベースキャンプの中へ。
食事をするところはこんな感じ。
寝るところは、二階の屋根裏。
ブラジルのフロリアノーポリスで泊まった「Sagui Hostel」を思い出します。
ここに用意されているのはマットレスだけで、寝袋は各自持参。
あらかじめツアー会社に話を通しておけば、きっとレンタルもできるだろうとは思いますが、私は自前の寝袋を使いました。
森くんも自分のものを使っていました。
こちらは、登山用の装備が置いてある部屋。
今回の登山ツアーは、装備一式のレンタルも込み込みです。
私は革の登山靴を愛用していますが、郷に入っては郷に従えということで、靴も含めてすべてレンタルすることにしました。
本音としては、せっかくだから靴は自前のものを使いたかったんだけど、このワイナポトシはけっこう雪深い山。
靴にはアイゼンという雪山用の爪を付け、手にはアイスピッケルを持っての登山となります。
さらに私は、雪山に登った経験ゼロ、まったくのド素人です。
となればここは、素人のちっぽけなコダワリは捨てて、現地のオススメ装備を使うのが筋でしょう。
さて、冒頭で「世界で最も挑戦しやすい6,000m峰」と書きましたが、雪山経験ゼロの私のようなド素人のために、ワイナポトシ登山ツアーには2種類のプランが用意されています。
まず1つ目が、二泊三日プラン。
最初の一泊は、このベースキャンプで高度順応しつつ、雪山用の装備に慣れるための練習をするプランです。
初級者向けのプランで、私たちは迷わずこの二泊三日のプランにしました。
2つ目は、一泊二日で一気に登頂してしまうプラン。
こちらは経験者向けのプランで、もちろん料金は二泊三日に比べて安く設定されていますが、それに伴ってハードな日程になっています。
というわけで、まずは雪山を歩く練習に出発!
ベースキャンプで装備一式を準備し、しばらく歩いて練習場に到着。
人生初アイゼン。
重くて歩きづらい……。
ピッケルを持って調子に乗ってみる。笑
撮影、森くん。
レンタル服が、ヘルメットも含めてすべて赤なのは、きっと遭難時に見つけやすいようにということだろうと思います。
……ここで断っておくと、今回の登山はかなりハードで、歩きながら写真を撮るような余裕はほとんどありませんでした。
両手両足、全身をフルに使って登っていくので、当然っちゃあ当然ですね。
さらに実は、このあとアクシデントに見舞われ、私はSONYのアクションカム「AS100V」を紛失してしまいました……無念なり……。
そのため、この練習のときの写真もありません。
練習の内容としては、アイゼンを履いて雪の斜面を往復したり、アイスピッケルの基本的な使い方を習ったり、といった感じでした。
動作そのものは難しくはなかったけど、なにせ酸素が薄くて、すぐ疲れるのが大変でした。
なお今回の記事には、森くんが撮った写真をたくさん使わせてもらっています。
さんくす!
こちらが、登山ガイドのセシリオ。
このワイナポトシツアーでは、私たちが使ったツアー会社も含めて、二人の登山客に一人のガイドがつくのが一般的です。
ツアー中は、食事の用意もこのガイドがしてくれます。
セシリオは英語はほとんど話せませんが、なかなか料理上手でした。
彼が作ってくれた料理の写真を、まとめて載せておきましょう。
チャーハン風のライスに、ポテト、チキン。
パスタ、肉、ポテト。
登山のためのエネルギー補給に、パスタは欠かせません。
二泊三日のツアー初日は、一時間ほどの練習が終わったあとは予定がなく、あとはベースキャンプで待機する時間となります。
練習はそれなりにハードで疲れたけど、拍子抜けするくらいすっぽりと時間が空いてしまいました。
きっと初日ということもあり、高度順応のための時間が長めに取られているんだと思います。
私と森くんは、ずっとお茶を飲みながらのんびりと話していました。
セシリオが作ってくれた夕食をいただき、この日は早めに就寝。
この日は、一気に頂上を目指すのではなく、ベースキャンプの上にある「ハイキャンプ」に向かいます。
昨日練習で使った登山用装備に着替えて、いざ出発だッ!
森くんが撮った、登山中の貴重な一枚。
ロープを掴みながら登るような、険しい場所も一部あります。
おちゃらけた森くん、休憩中。笑
かなりハードなので、頻繁に休憩を入れなければ登れません。
森くんが撮ってくれた一枚、これも休憩中。
「AS100V」で写真を撮っていますね……これが私のアクションカムの、最後の雄姿です……涙。
この写真をよく見てもらえるとわかりますが、実はこの時点では、まだレンタルした登山靴&アイゼンは履いていません。
ツアーによっても違うのかもしれませんが、ベースキャンプからハイキャンプに向かう行程では、まだそんなに雪が深くなかったこともあり、私たちは自前の靴で登りました。
レンタルした登山靴&アイゼンは、各自のリュックに入っています。
雲の切れ間から、うっすらと見えたのは、頂上か、それとも稜線か。
陽が落ちるよりもだいぶ早く、ハイキャンプに到着しました。
ここの標高は、5,270m。
ハイキャンプにも、テントではなくちゃんとした小屋が建っていました。
……ほとんど写真が無いのでサラッと飛ばしましたが、ベースキャンプからこのハイキャンプまでの道のりも、かなりキツかった。
標高5,000mを越えて、しかもけっこう重いリュックを背負って登ってきたので、当たり前っちゃあ当たり前だけど。
明日、ちゃんと頂上まで行けるのかな。
ちょっと不安な気持ちを抱えながら、この日はかなり早めに就寝します。
このハイキャンプには電気が無く、陽が沈むとともに強制的に消灯となります。
ちなみにこの写真は、森くんのベッドからの視点。
私のベッドは、通路を挟んだ隣でした。
この日はよく晴れていて、月も綺麗に見えました。
おやすみなさい。
翌朝……ではなく、深夜。
23時ごろに起床しました。
真っ暗な中、わずかな灯りを頼りに食事をとり、装備を身に着けて準備を整えていきます。
ベースキャンプで練習した、レンタルブーツ&アイゼンも履きました。
いよいよ、山頂へのアタック開始です。
0時を過ぎてから、ハイキャンプを出発しました。
どうしてこんな夜中に出発するのかというと、山頂で夜明けを見るためです。
ヘッドライトの明かりを頼りに、セシリオ・私・森くんの順番で、お互いに腰にザイルを結び付けて縦列になり、少しずつ歩を進めていきます。
……ここからは写真がまったく無いので、しばらく文章のみになります。
ハイキャンプを出てから最初の一時間、私の肺はずっと悲鳴を上げていました。
標高が高くて、酸素が薄い……だけでなく、喘息の発作が出ていたのです。
十歩ほど進んではヘタりこむ、ということがしばらく続きました。
必死になって立ち上がり、また十歩進んで座り込む。
何度かそんなことを繰り返して、それでも自分なりに結構頑張って進んできてるよな……と眼下を見おろしたところ、まだすぐそこにハイキャンプの建物が見えました。
このときは、正直に言って「これは無理かも……」という考えが頭の中をよぎりました。
それでも喘息の発作は、常備薬をちゃんと持参して出発前に服用していたこともあり、一時間ほどでおさまりました。
いやー、本当に苦しかった。
発作は落ち着いたとはいえ、酸素が薄いのには変わりなく、登るにつれてその濃度はさらに薄くなっていきます。
一時間ほど続いていた咳で体力を奪われていたこともあり、私にとってはかなり厳しい行程。
でも私の後ろを歩く森くんは、私たち二人分の水などを入れたリュックを背負ってくれた(リュックは一つなので二人のうちどちらかが持たなければならなかったんだけど、率先して背負ってくれた)うえに、歌までうたいながら軽快な足取りでした。
もしかしたら、つらそうにしていた私のことを気遣って、歌をうたってくれていたのかもしれません。
彼のおかげもあって、喘息がおさまってからは、まわりの景色に目を向ける余裕が出てきました。
まだ深夜2時とか3時くらいなので、当然ながら周囲は闇に包まれています。
それでも、頭上を見上げると、満天の星空。
このワイナポトシ登山、天候に恵まれずにリタイアするケースも少なくないようですが、私たちはお天気にはとても恵まれました。
少しずつ登っていく私たちを押し包むように、あたりにはとても細かな雪や氷の結晶が山風に乗って飛散していて、それがヘッドライトのか細い明かりを反射して、キラキラと幻想的な光景を作り出していました。
夜のダイヤモンドダスト。
それはこの世のものとは思えないほど美しくて、きっと一生忘れないと思います。
一歩ずつゆっくりと進む私たちの前に突如として、約10mほどもあるでしょうか、垂直の氷壁が現れたこともありました。
まず最初に、ガイドのセシリオがよじ登ります。
続いて私、最後に森くん、という順番で、セシリオが降ろしてくれたザイルに掴まり、アイスピッケルを氷壁に打ち込みながら、下を見ないように注意しつつ、慎重に登りました。
なかなかスリリングな体験でした。
やがて、山頂まで至る最後の急斜面が、私たちの視界に映りました。
いよいよこれが最後だ、とセシリオに教えてもらうまでもなく、私と森くんにはそれが分かりました。
大きな「く」の字を描くように、先駆者の足跡が雪に刻まれて、登るべき道を教えてくれています。
このとき、空はだんだんと白みはじめていて、夜明けの訪れが近いことを強く物語っていました。
斜面にとりつく前に、何度目か分からない休憩をはさんでから、私たちは再び歩き始めました。
私たちの体力は既に限界に近づいており、森くんのあの陽気な歌声も、さすがにもう数時間前から聴こえてきません。
私も、喘息の発作がおさまってからは気遣われるだけではなく、お互いに声を掛け合いながらの雪中行です。
最後の力を振り絞って、引きずるように足を前に踏み出しても、十歩ほどで息が切れて先に進めなくなります。
本当に少しずつ、時間をかけて、でも着実に。
もう顔を上げればそこに見えている頂上、その一点を目指す私たちの顔を、まぶしい光が照らし出しました。
暁光。
登頂にはわずかに間に合わなかったけど、最後の急斜面の途上で、私たちは夜明けを迎えました。
あたりが急激に明るくなっていく中で、ふと下を見ると、自分たちがかなりの傾斜の斜面にいることが理解できました。
私たちは、斜面の高くなっている側にアイスピッケルの石突きを突き刺し、支えにしながら登っています。
さらに、お互いの腰のあたりをザイルで繋いでいて、一人が足を滑らせたとしても、二人で踏ん張ることができるようになっています。
でも万が一、滑落してしまったら……そんな身の毛のよだつような想像をして、身体が慄えました。
この瞬間から私の脳内では、疲労や酸素の薄さによる体力面の厳しさよりも、高度と滑落への恐怖のほうが上回りました。
もちろん体力的にもキツかったけど、それ以上に、早くこの急斜面を突破して恐怖から解放されたい、という思いが勝ったのです。
だからこのときに限っては、疲れて大変だった、というよりも、高くて怖かった、という記憶のほうが明らかに強く残っています。
そして、そんな疲労と恐怖との戦いとも、ついに終わりを迎えるときが来ました。
いやー、ツラかったー。
このとき私はちょっと涙ぐんでしまったのですが、それも「ついに登り切った!」という達成感よりも、急斜面の恐怖から解放された「よかった~、怖かったよ……」という安堵感からでした。笑
太陽とは反対側の風景。
私たちよりも高い場所には、空と雲しかありません。
頂上から、最後の急斜面を見下ろしたところ。
この怖さ、写真で伝わるかなぁ。
私たちの後にも、何組かのグループが登ってきていますね。
めちゃくちゃ疲れたし、とにかく怖かったけど、それでもなんとか6,088m、制覇してやりました。
いやー、よかったよかった。
これにてワイナポトシ登山ツアー、終了!
……というふうに、サラッとは終われないのが登山です。
登りのときには必死すぎてスッカリ失念していたんだけど、登ったあとには下りなきゃいけないのです。
この下りも、けっこう大変でした。
最後の急斜面こそ、登りのときほど怖くは感じなかったものの、もう体力は限界近くまで消耗しています。
また私と森くんは、高山病にならないようにコカ葉をずっと噛みながらの登山だったのですが、下りになって森くんが頭痛を訴え始めました。
さらにセシリオいわく、太陽が高くのぼると雪が解けてきて危険なので、なるべく急いで下山しなければならないとのこと。
疲れた身体に鞭打って、雪中行の再開です。
下りの一場面。
ここもけっこうな斜度ですね。
登りのときには暗くて気づかなかったけど、クレバスが口を開けていて、危険な場所もいくつかありました。
つい先ほど越えてきた10mほどの垂直氷壁を、セシリオのザイルにぶら下がるようにしてクリアし、ハイキャンプに帰り着いても、森くんの頭痛はおさまりません。
ハイキャンプで軽食をとり、小休止して登山靴を履き替えてから、私たちは下山を急ぎます。
雪が解ける前にベースキャンプまで降りてしまわなければ危険だし、森くんの高山病も心配でした。
本人ではないので私にはその痛みの度合いはわかりませんでしたが、その後どうにか私たちは事故を起こすこともなく、ベースキャンプまで辿り着くことができました。
ベースキャンプ→ハイキャンプ→山頂と、一日半かけて登った行程を、半日足らずで下るのはかなりの強行軍でした。
そこからは行きと同様、ツアー会社の用意してくれたミニバンで、ラパスの安宿インティワシまで帰還。
ラパスまで下ると、森くんの頭痛も少しは和らいだようでした。
……これで正真正銘、ようやくワイナポトシ登山が終了です。
いやー、キツかった!
本当に本当にキツかったけど、6,000mを超える山に登れたというのは、私の人生において大きな出来事になりました。
それとこの先、なにか体力的にキツイことがあったとしても「あのワイナポトシのときに比べれば、これくらいどうってことない」と思い返すことができる、「越えてきたツラさの尺度を表すバロメーター」を一つ得られたという意味でも、貴重な経験でした。
ともに死線を超えた森くん、そしてガイドのセシリオ、まじでありがとうー!!